仙台だより(その2)
仙台市在住 元31組 添田 慎二
前回は、最近の仙台の様子や私の転勤後の生活の一端をお話しましたが、今回は私の仕事について若干触れてみたいと思います。
私は国土交通省のブロック機関である東北運輸局というところに勤めています。場所は、鉄砲町(てっぽうまち)といって仙台駅東部の榴ヶ岡(つつじがおか)公園に面したところにあり、県庁や市役所のある駅西部の繁華街からは離れた新興開発地にあります。一方、私の住む公務員住宅は仙台市西部の広瀬川を渡った青葉城のふもとにあり、つまり私は、市街地から西に外れた住宅から、繁華街を通り越して、駅の反対側の職場に通っています。川内公務員住宅は、東北大学川内キャンパス、宮城県美術館、仙台二高などに囲まれていて、木々が生い茂り、静かな環境で、休日の散歩などには絶好の場所です。ですが、困ったことに、周辺に店が一軒もないのです!!スーパーはおろか、コンビニもなく、食堂の類も全くなく(東北大学には生協があるようですが)、それは公務員住宅以外ほとんど周辺に住宅がないためのようです。この地区には、東北大などのほか、宮城県スポーツセンター、仙台国際センター、仙台市博物館…と公共施設ばかりあって、生活のにおいを嗅ぐにはどうしても橋を渡って広瀬川の向こうへ行かなければなりません。公務員住宅の住人の多くが自動車を持っていますが、私は、転勤2週間前に内示をもらった時点で横浜の自宅で10年ぶりに車を買い換え、新車の納入を待っていたところで、仙台で中古車すら買う余力もなく、交通弱者(役所が使う用語ですが、意味わかりますよね?)となることを決めました(というかならざるを得ませんでした)。今は、老人や学生とともに20分に1本(休日には30分に1本)のバスで市内と行ったり来たりしています。週1回ぐらいは仕事帰りに(東北唯一生き残った)ダイエー仙台店に立ち寄り、食料品や日用品を買って両手にポリ袋を下げ、電力ビル前バス停(ここはひっきりなしにバスが発着する場所です)で街を行く人々を眺めています。考えようによっては、もし車を持っていれば町や人間をじっくり観察することもなく点から点へ移動して、単身赴任でただでさえ少ない外界との触れ合いを更に遮断することになるので、今の生活の方が良いのかも知れませんね。
えーっと、なかなか仕事の話に入れませんが、東北運輸局の仕事は、わかりやすい例でいえば、自動車の車検、登録(実際は県ごとの運輸支局で行っていますが)で、今年は「仙台」、「会津」のご当地ナンバーの導入が決まりました。その他、鉄道、バス、タクシー、トラック、海運…といった交通事業の監督、船舶検査などが伝統的な業務ですが、実は、最近の地方運輸局の仕事の目玉は何と言っても観光です。地方運輸局は、小泉首相自ら旗を振る「ビジット・ジャパン・キャンペーン」(外国人観光客の誘致事業)の実行部隊なのです。今年の夏、東北運輸局、東北経済連合会が中心となって中国、韓国、台湾、香港等の旅行業者や旅行関係の新聞・雑誌記者を招いて、ねぶた(青森)、竿燈(秋田)、さんさ(盛岡)、花笠(山形)、七夕(仙台)、うねめ(郡山)などの東北の夏祭りを見てもらい、合わせてシンポジウムや地元の観光を売り込む商談会などを開催しました。彼らが本国に帰って旅行商品を企画したり、旅行雑誌に記事を書いてもらうことが狙いです。これらの夏祭りは日本人でも宿を手配するのが難しいので、参加した外国の旅行業者、記者はほとんどが初体験だったようで、大変喜ばれました。私も8月2日に東京で辞令をもらい、3日に仙台に引越しをして、5日からこの招待ツアーのホストとして同行しました。まあ行ったばっかりであまり役には立ちませんでしたが。そして山形や郡山の8月初旬の気温は38度ぐらいあって、東京よりはるかに暑かったですね。でも、どこのお祭りでも外国からのゲストのために、お祭りを見やすい最前列に特別席を用意してくれ、県知事や市長がゆかたやはっぴを着て出迎えるなど、地元からは熱烈な歓迎を受けました。
観光が仕事だなんて、遊びを仕事にしているみたいで楽しそうに聞こえるかも知れませんが、これは地域どうしの競争です。2004年の訪日外国人観光客は初めて600万人を超え614万人(日本人の海外旅行客数は1683万人)となりましたが、うち東北を訪れた人は24万人(推計)と、前年比22%増とはいえ、全国に占める割合はまだ4%です。これに対し、例えば北海道の2004年訪日外国人は前年比45%増の43万人(全国に占める割合は7%)。雪のない台湾向けに雪やラベンダーなど北国のイメージを売り込んだのが効を奏したらしく、また、オーストラリアからのシーズンオフのスキーツアーの需要もあるようです。東北にもスキー場はたくさんあり、温泉地の数も全国の22%を占め、おいしい食べ物も豊富にあるのですが、外国人向けに東北観光のイメージが十分に形成されていないようです。北海道は自治体が一つで取り組んでいますが、東北は普段は6県がそれぞれ観光宣伝事業を行っていることなども原因の一つかも知れません。
私の今の第一目標は、東北6県で観光を推進する連合体をつくること。今でも協議会はあって、今年の夏のキャンペーンもそこで行ったのですが、各県の予算や人員を一つの組織にプールして、より効率的な観光宣伝をしたいのです。既に九州ではこのような組織ができており、東北も早く発足させたいところですが、県は一つ一つが政治的な意思主体であり、首長レベルでの意思統一が必要です。第二の目標は、東北観光を網羅した日本語、英語、中国語(大陸向け、台湾向け)、韓国語のウェブサイトをつくるとともに、極力外国語での案内が受けられる観光案内所を増やすこと。団体観光客については、旅行業者向けにプロモーションを行うことが有効ですが、個人旅行客にとっては、いつでも容易にアクセスできる情報源が必要です。観光ウェブサイトは、単なるリンク集では情報のレベルが揃わないので、系統立ったものをつくる必要があります。しかし、外国語で、最新情報を盛り込んだウェブサイトを運営するには外国語ができる常勤のスタッフが必要で、第一目標の常設組織ができないと実現困難です。訪日外国人誘致は始まったばかりで、今のところ団体客誘致に主な関心が向いている感がありますが、個人客向けの息の長い努力もしておかないと長続きしないと私は考えています。
とまあ、えらそうなことを言いましたが、実は私自身、東北の観光の実態についてあまり知らないというのが悩みの種です。大学生から社会人になったころは、やはり北関東の人間として、観光旅行に行きたかったのはまず京都、奈良、そして九州など西日本が中心で、北となればまず北海道に関心が向いていました。東北は文化的親近感からか、いつでも行けるという安心感からか、今回の転勤までに行ったことがあったのは仙台、松島、そして十和田湖、奥入瀬ぐらいで、秋田、山形両県には足も踏み入れたこともありませんでした。赴任後、各県1、2箇所ある東北運輸局の出先機関をすべて訪問することができたので、県庁所在地などは見て回りましたが、後は休暇を取って旅行する機会があれば、という感じです。でも、一人で温泉旅館に泊まって料理を食べ、2万円も払うのはもったいないので…。まずは日帰りで行ける所からということで先日、平泉に行ってみました。
どなたか、東北に詳しい方、こういう観光地はおすすめ、とか(特に一般論でなく個人的な感想を)教えていただけるとありがたいですが…。
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